#4 「聞く」ということ
こんにちは。Uncle Jackです。
前回#3では英語の難しさをReadingの側面から考えました。今回はListeningについて考えてみたいと思います。
TOEIC Testという試験がありますね。日本では英語力を測る手段として広く利用されていますので受験された方も多いと思います。もう一つよく知られている試験は「英検」ですね。両者の違いは色々ありますが、「英検」が一つの試験で「読む」「書く」「聞く」「話す」の4技能を総合的に試す(級にもよりますが)のに対して、TOEICは「聞く」「読む」力を見る試験と「話す」「書く」の試験は別になっている点です。そして通常TOEICの点数を企業などから聞かれる時は、TOEIC Listening & Reading (L&R)の点数を指しています。L&Rの試験だけで英語力を見るのは適切なのか、と思われる方もいるのではないでしょうか。
「聞く力(L)」と「読む力(R)」で「英語の力」を判断する、というのは不合理なように見えますが、一定の合理性があるように思います。というのは、「話す(Speaking)」「書く(Writing)」の基礎となるのが「L&R」だからです。
「話す」力の基になるのは「聞く」力ですし、「書く」力の基となるのは「読む」力です。「聞く」「読む」は両方ともInputであり、「話す」「書く」はOutputです。Input=Outputではありませんので、L&Rの点数が高ければS&Wの点数も高い、というわけではありません。が、Inputが大であればOutputも大となる可能性があります。Inputが小さければOutputも小さい可能性が大です。なので、L&Rを見ればS&Wの「可能性」を想定することができます。
もちろん、「読む」力はないけれど「話す」力はあると言う人はいます。しかし、そういう人が言う「話す」力というのはおそらく日常会話のことではないでしょうか。TOEICや「英検」で試されるSpeakingの力は「まとまった考えを論理的に口頭で表現する力」のことです。企業などで求められるSpeakingの力もそのようなものです。それができるためにはReading やListeningで「語彙」や「表現方法(言い回し)」の蓄積をしておく必要があります。
一方で、「話す」ことと「書く」こと(S&W)は「聞く」「読む」(L&R)よりも易しいという側面もあります。「えっ」と思われるかもしれませんが、それはつまりこういうことです。「L&R」は他人が言ったり書いたりしたものを聞いたり、読んだりするわけですから、自分で制御することができません。難しい言葉や言い回し、専門用語、略語、俗語、方言などおかまいなしです。対面の会話であれば、こちらに合わせてしゃべってもらえるでしょうが、テレビ放送や空港でのアナウンスなどは一方的です。英語のメニューや掲示板もこちらに合わせてくれてはいません。ビジネス文書でも同じです。
それに引き換え、「S&W」は自分が文章を作るわけですから、自分の知っている単語や文法で対応できます。つまり自分のInputの範囲内で話したり、書いたりというOutputができるわけです。自分の力の範囲内で行えるという意味で「L&R」よりも易しいと言えるのです。結果的に、自分が話したり、書いたりする英語は「聞いたり」「読んだり」する英語よりもはるかに易しいものとなっているはずです。
以上は単なる理屈の話です。4技能のどれが易しいか、難しいかは人によって違うでしょう。Listeningが易しいと言う人もいれば、Readingが易しいと言う人もいます。おそらくWritingは誰にとっても最も難しいのではないでしょうか。母語であっても「書く」ということはとても難しく、一定のトレーニングが必要なのですから。日本の学校教育では、この「話す」「書く」という訓練をほとんどしません(母語でも英語でも)から、いざきちんと話す、書くとなるとお手上げという人が多いのです。Speakingも、まとまった考えを話すとなると、簡単ではありません。発音という要素が加わるし、事前に準備ができないという点で、Writingよりも難しいとも言えます。
それはともかく、L&RがS&Wの基礎なので、L&Rの力を見ればS&Wの力(絶対的な力ではなく、平均より上か下かという相対的なもの)のおおよその見当はつくと考えてよいのではないかと思います。私が大学で教えた経験からしても、L&Rテストの順位とS&Wテストの順位はほぼ同じでした。つまり、L&Rのテストで1番だった人がS&Wのテストで5番以下になることはないし、L&Rで5番以下の人がS&Wで1番になることもない、という程度の相関関係は見られる、ということです。
話がTOEICの方にそれてしまいましたが、今日言いたいのは「読む」のと同じように「聞く」ことは難しい、ということです。その理由は上に述べたように、「聞く」内容は自分が作るのではなく、別の誰かが作ったものだからです。私たちはどういう場面で英語を実際聞くことがあるか、考えてみればそのことがよく分かります。
*電話
*会議
*プレゼンテーション
*講演・講義
*空港・駅・機内・車内などのアナウンス
*テレビやラジオの番組(ニュース、ドラマ、ドキュメンタリーなど)
*映画
*演劇
*音楽
対面での日常会話は除きます。なぜなら、対面の場合こちらの英語力に合わせて相手がしゃべってくれることが多いし、分からないことは聞き返せるからです。ですから日常会話でのListeningはそれほど難易度が高いわけではありません(強い訛りのある英語は聞き取りにくいですが)。
上にあげたような一方的に話される言葉を理解するためには、やはりそれなりの訓練が必要です。手軽で効果的な方法を3つご紹介します。
<映画を見る>
自分の好きなジャンルの映画を中心に、できるだけ幅広いジャンルの映画を見ることが語彙を増やし、さまざまなタイプの人たちの喋り方に慣れるための近道です。お気に入りの映画のシナリオを読んでセリフを覚えたり、発音、イントネーションを真似たりすればSpeakingの力を高めることもできます。学習用のシナリオは色々販売されていますので活用すると良いと思います。
<TED Talksを聞く>
もっと仕事に近い英語(プレゼン、講義、講演など)を聞きたいという人にお勧めです。
さまざまな分野のスピーカーが登場しますので、一般教養を高めるうえでも価値がありますしプレゼンテーションの上手なやり方を学ぶこともできます。あまりにも数が多いのでどれを見るのがよいか分からない、という人は”The Most Popular Talks of All Times” “The Most Popular Talks of 2020”などから選ぶのが良いと思います。(なお、TEDでは画面に表示されるSubtitleのアイコンから言語を選択できるようになっていて、日本語を選択すれば、日本語字幕が表示されます。)
<英語ニュースを聞く>
NHK BS1の”World News”がお手軽だと思います。色々な時間帯(午前5時、6時、7時、午後0時25分)で放送されていますが、時間帯によってアメリカABCやイギリスBBC、シンガポールCNAなどの放送があります(朝早い時間帯なので録画しておくと良い)。
ニュースをやさしく10分間にまとめた”CNN Student News”というのもNHKBS1で放送されています。スマホであれば、”NHK World-Japan”アプリをインストールしておけばいつでも英語ニュースを視聴することができます。
今の時代、英語はテレビやネットで簡単に聞くことが可能です。けれども漫然ときいているだけではListeningの力はつきません。4技能のどの学習にも言えることですが、「数をこなす」ことと「集中する」ことを並行してやる必要があります。バックグラウンド音楽のように英語を流しておいて「英語の音に慣れる」こと、そして時には「集中して聞き取る」こと、意識的に聞くことが重要です。Readingよりもとっつきやすいので、とりあえずListeningを習慣化することに挑戦してみてください。(了)